受けた“数”が、頭の中だけで転がっている
注文が入る。「ありがとうございます」と返す。——その裏で、頭の中ではもう別の計算が始まっています。「これ、あと何個あったっけ」「さっき別の注文でも、同じ品を受けたような…」。
在庫の数は、たいてい頭の中か、別のメモか、月初に数えたきりの古い数字の中にあります。注文が立て込んでくると、その数が追いつかない。「たぶん足りる」で受けて、いざ出そうとしたら棚に無かった。あるいは、同じ最後の一個を、二人のお客さんに「大丈夫です」と言ってしまっていた——気づくのは、たいてい出荷の直前です。
注文を受けるたびに、心のどこかで小さく身構える。「足りるかな」を確かめるために、棚を見にいったり、台帳を遡ったり。受注の喜びより先に、在庫の不安が顔を出す。——そういう身構えを、もう毎回しなくていい、という話です。
育てる編①では、「お金の輪」——受注から見積・請求・入金・領収まで——の最後をつなぎました。今回はそれとは別の、もうひとつの輪=「在庫の輪」に入ります。注文を受けた“数”を、頭の中から秘書の台帳へ預ける回です。
結果から言います = 在庫の「引当」も「出庫」も、メニューを押すだけ
先に結論から。核(応用編その3)で一度貼ったコードのまま、在庫のやりとりも「メニューのこの項目を押すだけ」で動きます。 新しくコードを貼り直す必要も、AIに頼み直す必要も、ありません。育てる編は、ずっとこの約束です。
そして、この回でいちばんお伝えしたいのは、ここです。注文がフォームから入った瞬間、その分の在庫はもう「予約(引当)」されています。 核の回では、フォーム送信の説明を「受注台帳に1行入る」ところまでで止めていました。でも実は、その同じ送信が、状態を「受注」にして、明細ぶんの在庫をその場で押さえるところまで、自動で走っています。

やることを先に並べると、こうです。
- 受注を確定したら → 在庫を 「予約(引当)」 で押さえる(フォーム送信なら自動。手で確定するならメニューを押す)。
- 注文が流れたら → 「失注(引当解除)」 で予約を戻す。
- 納品したら → 「納品書PDF」 を出すと、在庫が実際に減る(出庫)。
- 仕入れが届いたら → 「入庫を登録」 で在庫を増やす。
- 棚を数えたら → 「棚卸の実数を反映」 で、台帳を現実に合わせる。
電卓も、別メモも、「あと何個だっけ」の遡りも、ありません。わたしがやるのは「どの注文に、何をするか」を選んで押すこと。 あとは秘書が、決まった手順で在庫の数を動かしてくれます。
今回も、わたしはコードを一行も書いていません。書いたのはAIで、わたしがやったのは、核の回で一度だけ貼って、許可しただけ。在庫の仕組みは、もうそのコードの中に入っています。
① 受注した瞬間に在庫を押さえる = 引当
「引当」というのは、受けた注文の分だけ在庫を「予約」しておくこと。まだ出荷はしていないけれど、「この数は、もうこの注文に取ってある」と印をつける——それが引当です。

引当が走る入り口は、ふたつあります。
ひとつめは、フォームからの注文。これは自動です。 お客さんが注文フォームを送信すると、受注台帳に1行が入り、明細が展開され、合計が計算され——そして その流れの最後で、明細ぶんの在庫がそのまま引当(予約)されます。 あなたは何も押していません。注文が来た瞬間に、在庫はもう押さえられている、ということです。
たとえば、フォームで「精密部品A ×5」の注文が入ったとします。受注台帳に行ができると同時に、在庫シートの「精密部品A」の 引当数が +5 され、「利用可能(=現在庫−引当)」がその分減ります。次に同じ品の注文を見るとき、利用可能の数はもう減っている。だから「最後の一個を二人に売る」が、構造的に起きにくくなります。
ふたつめは、手で受注を確定する場合。 電話やメールで受けた注文を自分で台帳に起こしたときなどは、その行を選んで、メニュー 「受発注秘書」→「在庫」→「選択行を受注確定(在庫を引当)」 を押します。状態が「受注」に前進して、明細ぶんの在庫が引当されます。やることはフォームと同じで、押す側が人になるだけです。
ここで、この秘書が気をきかせてくれるところ。引当は「足りない分だけ」予約します。 一度引当したあとに明細を1つ足して、もう一度受注確定を押しても、すでに押さえてある分は二重に予約されません。差の分だけが追加で押さえられます。「うっかり二回押して、在庫が二重に減ってしまった」——それが起きない作りになっています。
ひとつ正直に。フォームからの取り込みでは、在庫の予約で何かつまずいても、注文の取り込みそのものは止めないようにしてあります。注文を受け損ねるのがいちばん困るからです。だから、まれに引当だけ後追いになることはあっても、注文の記録は必ず残る——そういう優先順位で作られています。
② 注文が流れたら = 引当を戻す(失注)
押さえた在庫を、戻すこともあります。見積を出したけれど成約しなかった、お客さんの都合でキャンセルになった——そういう「失注」のとき。予約したままにしておくと、その分の在庫がずっと“取られっぱなし”になって、他の注文に回せません。
やり方は、こうです。
- 受注台帳で、流れてしまった注文の 行を選びます。
- メニュー 「受発注秘書」→「在庫」→「選択行を失注(在庫の引当を解除)」 を押します。
- 失注にしてよいか、確認のダイアログが出ます(「失注にして在庫の引当を解除します」という内容。うっかり取り消さないための、ひと押しの確認です)。OKを押すと、予約していた在庫が戻ります。
これで、状態が 「失注」 になり、その注文で押さえていた引当が解放されます。さっきの「精密部品A ×5」なら、引当数が −5 され、利用可能がその分戻ります。
ここに、安心のための見張りがひとつ入っています。もうすでに納品(出庫)が済んでいる注文には、引当解除はできません。 「この受注は既に出庫(納品)済みのため、引当解除はできません。」と教えてくれて、止まります。出したものを“なかったこと”にして数が狂う、という事故を、入り口で止めてくれる、ということです。
③ 納品したら = 在庫が実際に減る(出庫)
予約(引当)は、あくまで「取ってある」状態。実際に在庫が減るのは、納品したときです。そして、その引き金は——育てる編①でも触れた、あの 納品書PDF です。
やり方は、もうお馴染みのとおり。
- 受注台帳で、納品する注文の 行を選びます。
- メニュー 「受発注秘書」→「選択行から 納品書PDF」 を押します。
- 納品書がPDFになって保存され、同時に、その明細ぶんの在庫が実際に減ります(出庫)。
このとき、在庫の中で起きているのは2つ。現在庫が、出荷した数だけ減ります。 そして、それまで予約として押さえていた 引当が、1回だけ解放されます。 「予約していた分が、実際の出荷に振り替わる」——そう思ってください。だから引当が二重に残ったり、現在庫だけ減って予約が残りっぱなし、ということになりません。

知っておいてほしいのは、ここでも秘書が 「二重に出さない」見張りを持っていること。
- 同じ注文の納品書を、もう一度発行しても、在庫は二重に減りません。 一度出庫した品は「もう出した」と記録されていて、二度目はその品をスキップします。「念のため、もう一回PDF出しておこう」が、在庫を狂わせません。
見積書や請求書のPDFでは、在庫は動きません。在庫が実際に減るのは、納品書を出したときだけです。「書類を出す=在庫が勝手に減る」ではなく、「納品した、と納品書で宣言したときに減る」——その一点だけ覚えておけば大丈夫です。
④ 仕入れが届いたら/棚を数えたら = 入庫・棚卸
在庫は、減るだけではありません。仕入れが届けば増えるし、ときどき棚を数えて、台帳と現実のズレを直す必要もあります。そのふたつも、メニューにあります。
仕入れ・入荷が届いたら = 入庫の登録。
- メニュー 「受発注秘書」→「在庫」→「入庫(仕入・入荷)を登録」 を押します。
- 品名 を聞かれます(在庫シートの品名と同じものを。無ければ新しく行が追加されます)。
- 次に 数量(1以上の整数)。0や空、文字は受けつけません。
- 必要ならメモを入れて、完了です。現在庫がその数だけ増えます。
入庫を登録すると、もうひとつ気の利いた処理が裏で走ります。発注書を出して「入荷待ち」になっていた数があれば、届いた分だけ自動で消し込んでくれます。「あといくつ入荷待ちか」の数字が、現実に合わせて減る、ということです(この「入荷待ち」の話は、次回の育てる編③でくわしく)。
棚を数えたら = 棚卸の反映。
在庫は、出庫や入庫だけでは現実とぴったり合わなくなることがあります(破損、数え間違い、記録漏れ…)。そこで、ときどき実際に棚を数えて、台帳をその実数に合わせます。
- 在庫シートの 「棚卸実数(任意)」列 に、数えた実際の数を打ち込みます。
- メニュー 「受発注秘書」→「在庫」→「棚卸の実数を反映」 を押します。
- 打ち込んだ実数と、台帳の現在庫との 差だけが調整 され、現在庫が実数に合います。
ここにも、うっかりを止める見張りがあります。数字でないもの(空欄や、まちがって入れた文字)は、反映しません。 数えていない行をうっかり0扱いして在庫を消してしまう——という事故を防ぐためです。反映できた行だけ、入力欄が自動で空に戻ります。
在庫シートの「状態」列が、棚の声を代わりに出す
在庫シートには、品ごとに 「状態」列 があります。ここに、その品が今どういう状況かが、文字で表示されます。

出てくる文字は、こうです。
- 欠品 … 現在庫が0以下。もう手元に無い状態。
- 要発注 … 利用可能(現在庫−引当)が、決めておいた「発注点」以下まで減った状態。「そろそろ仕入れどき」のサイン。
- 適正 … まだ余裕がある状態。
- —(ダッシュ) … 発注点を「0」にした品(送料やサービスなど、在庫として数えない品)が、在庫を切らしたとき。在庫があるうちは「適正」と出ます。これは後ろの「正直にできないこと」で改めて。
この状態は、引当・出庫・入庫・棚卸——在庫の数が動くたびに、自動で計算し直されて書き込まれます。あなたが頭の中で「これ、そろそろヤバいかも」と数えなくても、台帳のほうが「要発注」「欠品」と先に言ってくれる、ということです。
ひとつ、正直にしておきます。この状態は、セルに 「欠品」「要発注」「適正」という“文字”が書き込まれるものです。赤や黄色で派手に光るような色分けではありません(その出し分けは、別途の「発注が必要な在庫を確認」メニューや、任意のメールでのお知らせが受け持ちます。これも次回③で)。だから「画面が真っ赤になって警告する」のではなく、「文字で静かに教えてくれる」——そういう作りだと思ってください。煽らず、でも見落とさせない。それがこの状態列の役目です。
裏側のしくみ(ここは読み飛ばしてOK)
ここは、仕組みに興味がある人だけ、のぞいてください。読み飛ばしても、メニューはちゃんと動きます。
二重に売る・二重に出す・二重に減らす——在庫でいちばん怖い「二重」を、この秘書はどう防いでいるか。鍵は 「在庫履歴」という台帳です。
- 在庫の数が動いた記録は、すべて履歴に残ります。 引当・引当解除・出庫・入庫・棚卸調整——いつ、どの品が、いくつ動いたか。この履歴が「本当のところ、どうなっているか」の唯一の答えになっています。秘書は、在庫のセルの数字を信じるのではなく、この履歴を読んで判断します。
- だから「二重出庫」が起きません。 納品書をもう一度出しても、秘書は履歴を見て「この品は、もう出庫済み」と分かるので、その品をスキップします。引当も同じで、履歴から「すでに予約済みの分」を引いて、足りない分だけを押さえます。「うっかり二回」が、数を狂わせない理由はここにあります。
- 同時に押しても、順番に処理されます(ロックでの直列化)。 たとえば複数の注文フォームがほぼ同時に届いても、在庫の数を「読んで・足し引きして・書き戻す」一連の処理は、一度にひとつずつ順番に行われます。だから「二人ぶん同時に処理して、片方の更新が消える」という取りこぼしが起きません。
大事なのは、これらが全部、自動で効いていることです。あなたが「二回押しちゃったかも」と心配しなくても、秘書のほうが履歴を見て、正しい数に落ち着けてくれます。
ただし、もう一度だけ正直に。「数が二重にならない」ことと、「その数が現実と合っている」ことは、別の話です。 前者は仕組みで守れます。でも、実際に棚に何個あるかは、ときどき数えて棚卸で合わせる——そこだけは、人の手に残ります。
正直にできないこと(先に言っておきます)
このブログのやり方として、できないことは先に正直に言います。在庫の機能にも、はっきりした限界があります。
- 発注点を0にした品は、在庫管理の対象外になります。 送料やサービス料のような「在庫という概念がない品」は、発注点を0にしておきます。すると状態列は、在庫があるうちは「適正」、在庫が切れると 「—」(「欠品」ではなく)になり、「発注が必要な品」にも上がってきません。これは“バグ”ではなく、「数える意味のない品を、わざわざ警告しない」ための仕様です。逆に言えば、ちゃんと在庫を見張ってほしい品は、発注点を1以上に設定しておく必要があります。
- 状態は「色」で警告するわけではありません。 上で書いたとおり、「欠品」「要発注」は色ではなく文字で出ます。ひと目で真っ赤、という派手さは無いぶん、見落とさないように「発注が必要な在庫を確認」のメニューやメールでの知らせ(次回③)と組み合わせて使う設計です。
- 「在庫があるか」を、秘書が現物を見て判定したりはしません。 秘書が知っているのは、あくまで台帳上の数。実際の棚と合っているかは、棚卸であなたが合わせます。秘書は、あなたが入れた数を正しく増減し、二重を防ぐところまでが仕事です。
- 送金・決済・発注の実行は、いっさい扱いません。 これは在庫の数を動かすだけ。お金を動かしたり、仕入先に発注を“送信”したりはしません(発注書のPDFを作るところまでは次回③で扱いますが、それも「送る」のは人です)。
——在庫という、数がズレたら現場が止まる仕事を任せる相手が、「ここまでしかやりません」「ここは人がやってください」を正直に申告してくれること。それ自体が、いちばん安心できるところだと思っています。
次回予告:育てる編③=在庫が減ったら、向こうから教えてくれる
今回で、在庫の「増える・減る・予約する・戻す」が、ぜんぶメニューに乗りました。注文の“数”を、頭の中から台帳へ預けられるようになった、ということです。
でも、ここまでは「あなたが見にいけば、状態が分かる」段階。次回は、その一歩先へ進みます。
- 育てる編③:在庫が減ったら、秘書のほうから教えてくれる。 「この品、そろそろ発注点を切りそう」を見張って、要発注の品をまとめて教えてくれる。さらに、その品の 発注書PDF まで用意してくれる。「気づいたら在庫が切れていた」「発注を出し忘れていた」——あの後手を、秘書が先回りで潰します。
これも、追加でコードを貼り直す必要はありません。 発注点を見張る仕組みも、発注書を作る仕組みも、もう核の回で貼ったコードの中に入っています。次回も「メニューのこの項目を押すだけ」の解説です。ここまで手を動かせたあなたなら、もう、この続きも越えていけます。
※本記事および本書類の税区分・記載は一般的な実務整理に基づく簡易対応です。真偽・税区分は判定していません。最後は、元記事および顧問税理士・国税庁の最新情報でご確認ください。コードは、一行も書いていません。
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